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2024年(令和6年)1月施行の「相続税及び贈与税の税制改正」とは?

2024年(令和6年)1月施行の「相続税及び贈与税の税制改正」とは?
2024年からスタートする税制改正としては、新NISAが注目を集めていますが、もうひとつ、ファイナンシャル・プランナーへの相談が多い税制改正のテーマがあります。それは、「相続税及び贈与税の税制改正」です。この改正を正しく理解して活用するとしないとでは、支払う相続税額が変わってしまう可能性があるため、子孫に生前贈与を検討している方は、ぜひ理解しておきたいところです。改正のポイントと注意点をご紹介します。
株式会社FPフローリスト代表取締役/CFP®認定者/ファイナンシャル・プランナー 圦本弘美
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そもそも「贈与税」とは?

 改正の内容に入る前に、そもそも贈与税が何故あるのかを確認したいと思います。贈与税が何故あるのかというと、相続税の補完機能を果たすためです。日本では一定額以上の相続財産には相続税が課せられます。その為、資産をお持ちの方には、相続税を軽減しながら子孫に財産を継承したい、と考える方もいらっしゃいます。その時に贈与税がなければどうなるでしょうか?

 例えば、「10億円の財産があるが、相続税をできるだけ払いたくない」という場合、亡くなる直前に家族に10億円を贈与してしまえば、死亡時に財産がゼロになり、相続税はかかりません。贈与された家族もまた、使い切れない財産を亡くなる前に別の家族に贈与すると、また相続税がかかりません。つまり、贈与税がないと、相続税が有名無実化してしまうのです。その為、相続税と「セット」で贈与税というものがあり、贈与税の方が相続税より税率が高めに設定されています。なお、贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、暦年課税による贈与は、年間110万円までは非課税・申告不要となります。

贈与を実行する際の注意点

 贈与は、「贈与者(贈与する人)」と「受贈者(もらう人)」の両方の意思表示が必要です。もらう側の人が「贈与を受けているのを知らなかった!」という場合、贈与は成り立ちません。両者の意思表示の証拠として、贈与契約書を作成することをお勧めします。これは当事者間の事実証拠になると同時に、税務署に「贈与を確かに実行したんです」と言える証拠になります。

古代ローマの相続

 余談ですが、古代ローマ貴族は、財産のうち相当な額を、大切な友人やお世話になった恩人に譲るという風習がありました。今の日本で言えば死因贈与に当たります。遺言書の中に「親愛なる友人●●に財産○○を贈る」という記述が続くのを見ると、時代や国体・税制が違うと、(人生観の一部である)財産に対する価値観も異なるのだなと興味深いですね。
 また、民法上の相続でも、古代ローマと現代日本には大きな違いがあります。古代ローマには法定相続という概念がなく、遺言で指名した人が次の家長となり、家と財産を引き継ぎます。名門貴族の家系を継続させるため、能力主義観点から後継者を決めるという発想と、遺言書の効力が絶対的であることから、家長の権力の大きさを垣間見ることができます。

2024年(令和6年)1月施行の「相続税及び贈与税の税制改正」とは?

 それでは、本題の2024年1月以降の相続税・贈与税の大改正(変更点)について確認して参りましょう。
税制改正のあらましは国税庁の資料にまとめられています。

令和5年度(令和6年1月1日施行)相続税及び贈与税の税制改正のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-004.pdf
国税庁の資料には4つの改正ポイントがまとめられていますが、更にこの中で、ご質問が圧倒的に多い2つに絞って解説をして参ります。

【改正1】 相続時精算課税に係る基礎控除の創設

 相続時精算課税を選択した受贈者が、特定贈与者から令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別に、贈与税の課税価格から基礎控除額110万円が控除されます。
 また、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算されるその特定贈与者から令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産の価額は、基礎控除額を控除した後の残額とされます。
※相続時精算課税は、原則として、①贈与者が贈与の年の1月1日において60歳以上であり、②受贈者が同日において18歳以上で、かつ、贈与時において贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫である場合に選択することができます。

【改正2】暦年課税による生前贈与の加算対象期間等の見直し

 相続又は遺贈により財産を取得した方が、その相続開始前7年以内(改正前は3年以内)に、その相続に係る被相続人から暦年課税による贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の価額(その財産のうち相続開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の価額の合計額から100万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算することとされます。

「相続税及び贈与税の税制改正」で、何がどう変わったの?

 一番のメリットと言えるのは、(今まであまり人気のなかった)相続時精算課税制度に、年間110万円の基礎控除が新設されたことです。一方、一番のデメリットと考えられるのは、今まで生前贈与の相続財産への持ち戻しは相続開始前3年以内であったものが、(段階的に)7年以内に延長される点です。

分かりやすい事例で考えてみましょう。
ご夫妻それぞれが相続税のかかる財産をお持ちで、一人っ子の息子に生前に贈与をしていきたいが、「贈与税」も「相続税」もできるだけ非課税にしたいという場合です。
【2023年まで】相続税も贈与税も非課税になるように息子に贈与できるのは、暦年課税による贈与で、夫婦併せて年間110万円まででした。
【2024年以降】夫婦のどちらかが相続時精算課税制度による贈与をし、もう1人が暦年課税による贈与を実施することができます。各制度の基礎控除が110万円ずつのため、合計で年間最大220万円を、非課税で息子に贈与することができます。

FPから見た「相続税及び贈与税の税制改正」の注意点

 一見、魅力的な相続時精算課税制度の基礎控除新設ですが、注意点もあります。同一人物からの贈与について、一度相続時精算課税制度を選択するとその後暦年贈与が出来なくなる点は従来通りで、慎重に選択する必要があります。
また、暦年贈与は相続が発生した時に相続財産に加算される期間が3年から7年と長くなるため、「そろそろ相続になりそうだから子孫に贈与を始めよう」と思って実行しても、長生きしないと効果がない恐れがあります。

専門家に相談の上実行を

 今回は相続時精算課税制度の改正と贈与税の改正のポイントをご紹介しましたが、制度の全体像はかなりややこしいです。ネットの記事だけを読んで間違った理解をしている方が少なからずいらっしゃいます。実行される場合は、ぜひ税理士などの専門家、又は所轄税務署にご相談ご確認ください。

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