スタグフレーションが起きたときの資産防衛術
スタグフレーションとは?
スタグフレーション(stagflation)は、イギリスで生まれた合成語です。「経済の停滞」を意味する「スタグネーション(stagnation)」と、物価の上昇を意味する「インフレーション(inflation)」を掛け合わせた言葉で、経済活動の停滞と物価の上昇が同時進行する経済現象のことをいいます。モノの値段がどんどん上がってしまうのに、給与は上がらない、あるいは失業者が増えるというような、景気が悪いのにもかかわらず、物価上昇が止まらない状況のことを指します。
スタグフレーションとインフレの違いは?
インフレ(インフレーション)とは、物価が継続的に上昇する状態を指す言葉です。通常は、需要が供給を上回る時に起きます。モノが不足すると物価上昇が起きますが、物価が上昇し続けると言うことは、企業の利益が増え給与も上がっていくため、景気が良くなると言われています。
景気がよくなるインフレは、需要に引っ張られて物価が上がるインフレで、「デマンドプルインフレ」と言われます。
しかし、インフレには悪いインフレもあります。例えば原材料費等が値上がりしたため、やむなく物価が上がっているが、企業は儲かっていないので景気が悪化しやすくなるパターンのインフレです。これを「コストプッシュインフレ」と言います。コストプッシュインフレが引き金となってスタグフレーションが起きることもあります。
インフレが続くと、モノの価格が上がり、お金の価値が下がって行きます。
スタグフレーションとデフレの違いは?
一方、デフレ(デフレーション)は、物価が継続的に下落し続ける状態を意味する言葉です。景気が後退傾向であると、買い控えなどでモノが売れなくなって物価が下がって行きます。デフレが続くと、モノの価格が下がり、お金の価値は上がっていきます。
日本ではバブル崩壊後1990年代半ば以降、約30年にわたってデフレ基調が続いていました。しかし、2020年代に入って、世界的なインフレ傾向に影響を受け、状況が変わりつつあります。
過去のスタグフレーション事例【オイルショック】
日本がスタグフレーションに見舞われた事例として有名なものは、1970年代~1980年代のオイルショックがあります。1973年第4次中東戦争の勃発をきっかけに、OPEC(石油輸出国機構)が原油価格を大幅に引き上げました。その結果日本では、消費者物価指数が25%程度上昇してしまい、株価は下落し経済は低迷しました。
スタグフレーションが起きると家計はどうなる?
スタグフレーションを改めて説明すると、「インフレとデフレの悪いところが同時に起きる厄介な経済状態」と言うことができます。つまり、「物価は上がっていくが、景気は悪く賃金が上がらない」という、家計にとっては悩ましい経済状態を言います。
スタグフレーションが起きると、お給料は上がらないが、食料品や光熱費、日用品などが軒並み値上がりしてくため、家計が苦しくなる人が増えます。また、物価が上がれば、お金の価値が相対的に下がるので、大切に貯めてきた預貯金の実質購買力が低下してしまいます。
今後スタグフレーションが起きる可能性は?
2021年以降、世界中が物価高に見舞われたのは、コロナで減速した経済が反動で活性化し、モノや人手不足が起きたこと、そこへウクライナ戦争が起き、世界有数の天然ガスや小麦などの産出国であるロシアとウクライナからの物資の安定供給が危うくなったこと、インフレを抑え込もうとアメリカ中心に多くの国が急ピッチの利上げに踏み切ったこと等が重なったことが原因です。
更に、世界各地で地政学リスクが高まっています。ウクライナ戦争の終結の見通しが立たない状況の中、中東ではイスラエル・ハマス紛争が勃発したことからシーレーンが危うくなっています。
中東から原油を運ぶタンカーの通り道であるホルムズ海峡は、イランが封鎖も辞さない姿勢を打ち出しています。もう一方のスエズ運河では、イエメンの武装組織に輸送船が攻撃される事件が相次いでいます。原油高や資源高が長期にわたるなら、スタグフレーションが起きる可能性は高まっていくでしょう。
スタグフレーションから家計を守る対策は?
スタグフレーションは悪いインフレと似た状態のため、インフレ対策を踏襲することが基本方針となります。つまり、インフレに強い株式や現物資産への投資配分を増やすことが効果的な対策となります。
ただし注意点としては、スタグフレーションというのは単なるインフレではなく、景気の悪化がセットであるため、株式は急落するような事態が繰り返し起きる可能性も高くなります。その為、株式のようなリスクの高い投資対象は、積み立て分散投資を少しずつ進めていくか、急落した時に割安になったものを見極め、購入できるような資金準備をしておくべき、ということになります。
また、資産防衛としては現物資産の保有率を高めることが効果的です。現物資産の代表選手をご紹介します。
(1)外貨建て資産
資産の一部を外貨建商品にしておくと、円安による物価高騰が起きたときには、外貨建資産も増えていくため、資産全体の目減りを軽減することができます。
(2)不動産
不動産は景気低迷時でも価値が下がりにくく、インフレが進むと物件価格も家賃も上昇しやすいため、不動産への投資はインフレ対策としては有効です。ただし、現物不動産投資には数千万円単位の資金が必要となってしまい、実行できる人は限られています。REIT(不動産投資信託)であれば、誰でも少額から不動産投資が可能です。また、数百万円程度から購入できる不動産小口化商品というものがあり、投資と相続対策を兼ねられるとして富裕層の間では人気があります。
(3)金(gold)
「有事の金」と言われるように、現物資産として金を持っておくと価値の目減りが起きにくいため、経済が大変動に見舞われた際に備えることができます。金以外にも銀、プラチナなどを、同じ効果を期待して投資に組み入れる方もいらっしゃいます。ただし金はインカムゲインを生まないため、積極的な運用というよりは資産防衛のために持つ、という考え方で検討しましょう。現物の金を購入する方法もありますが、金に投資するETFや投資信託で少額から投資することも可能です。
スタグフレーション時代の資産運用
デフレ時代には、「物価が下がっているから、無理に投資をしてお金を増やそうとしなくてもよいのでは」と思っていた方もいらっしゃると思います。しかし、スタグフレーションが起きるなら、資産を目減りさせないため防衛としての資産運用を考える必要が出てきます。
FPフローリストでは、運用相談経験の豊富な女性のファイナンシャル・プランナーが、リスク許容度に合った運用をご一緒に考え、ライフプランの実現に対するご不安軽減のお手伝いをさせていただいております。デフレからインフレに時代が変わりつつある今、今までの貯蓄や運用に対する考え方を見直してみたい、と思われる方のお力になれれば幸いです。
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